僕が知ってるなまえちゃんは、僕が今まで見て、話してきたなまえちゃんが全てだよ。
可愛くて、優しくて、ちょっと素直じゃないところもあるけど、嘘が吐けない。
そんななまえちゃんだから好きになったんだ。だから、僕はいつも君の味方だよ。
久しぶりに夢を見た。昔の夢。以前はよく見た夢ではっきり覚えていたのに。
だんだんと靄がかかったようになって、あまり見ることもなくなってきた。
「いやだな・・・」
ぽつりと呟いてはっとした。両頬を叩いて大きく伸びをして、喝を入れる。
今日も1日が始まる。
「なまえさん」
「あ、善逸くん」
声のする方を向くと、すっかり休みモードになった善逸くんが立っていた。
「今日もお疲れ様」
「ほんとだよーもう」
あの日以来、善逸くんとはよく話すようになった。夕餉の前の空いた時間に、なんとなく縁側に来て少し話す。それが習慣化されつつあった。
私が、敬語じゃなくてもいい、と言ったので、今ではすっかり敬語じゃなくなった。こんなに仲良くなった隊士の子は初めてだなぁ、となんだか嬉しかった。
それと同時に、今朝見た夢を思い出した。
善逸くんは少し似ているのだ。夢の中の彼に。
そして私は、それが誰だかよく知っている。
「なまえさん…どうかした?」
急に、善逸くんが心配そうに聞いてきた。
「…どうもしないよ?どうして?」
「突然、なまえさんから悲しい音が聞こえてきたから…今日だけじゃない。俺と話してるとき、時々なまえさんからさっきみたいな音がするんだ」
ああ、ちくりと私を刺す胸の痛みは、彼の良すぎる耳には届いていたんだ。そしてその原因が自分にあるのではと思っている。
少なからず彼を傷付けてしまったことに、更に胸が痛んだ。
「やっぱり、善逸くんの耳はごまかせないんだね。まいったなぁ…」
「なまえさん…」
たぶん、このままどうにかして、はぐらかすことはできたはずだ。
でも何故かそれはできなかった。
気が付いたら口を開いていた。
「ねえ、良ければ私の面白くない話、聞いてくれる?」
そう言うと、善逸くんは力強く頷いてくれたので、なんだかそれだけで泣きそうになった。